SETSUKO FUKAI

 

深井せつ子

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ESSAY エッセイ

『あのとき、病院で』

「母の友」10月号(福音館書店)

第75号表紙絵は世界遺産に登録されている旧・エンゲルスベリ製鉄所。(首都ストックホルムから少し北方)かつて、スウェーデンは鉄鋼業が盛んだった。16世紀から19世紀の末頃までは国家的な産業だった。20世紀に入ると産業が下降線をたどりはじめる。労働者が流出し人口が減って、この一帯は過疎化の兆しが見え始めた。そこから、この地域の人々の大活躍がはじまる。

 

鉄鋼業に誇りを持つ人々は、その地域一帯全てを産業遺産と捉え、博物館化することを考えた。採掘場・溶鉱炉・製鉄所・水車・鉄道・運河等々。「鉄の歴史museum」の誕生だ。正式名は「ベリスラーゲン・エコミュージアム」。博物館とはいえ、面積は東京全域くらいの広さだ。

そこに点在する産業遺産を車で回ったことがある。現在は産業がストップしているはずなのに鉄工所から煙があがっていた。中に入ると、釜の火が赤々と燃え、老人がハンマーを振り下ろして何かを叩いている。小学生くらいの子供が取り囲んでいるので、私も覗いてみると、老人は小さな鉄製のフックを作っていた。そう、もと現場労働者が、今は楽しんで実演をしているのだ。子供らは、昔の様子を想像し、鉄の歴史に関心を持つことだろう。このような場面をあちこちで見ることが出来た。地域の人々が積極的に活動しているのだ。

この「鉄の歴史museum」は、いまでは年間2~3万の観光客を迎える地域へと変貌をとげた。

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